「株式投資の基本」シリーズ第4弾の後編です。
前編は一般口座と特定口座について見てきました。後編ではいよいよ”第3の口座”NISAについて考えていきます。
俺達のNISA
一般口座と特定口座はあくまでも「普通の証券口座」です。特別に制限がありませんので、好きな証券会社でいくらでも作ることができます。しかし、日本にはNISAというスペシャルで素敵な制度があります。こちらは一人が一つしか作れません。証券会社をまたいだりすることもできません。一人一つだけです。
NISAは(ほぼ)完全に税金が免除!
NISAは「Nippon Individual Saving Account(少額投資非課税制度)」の略で、この口座での配当金や譲渡益には(ほぼ)一切税金がかからないスーパーボーナス制度です。マジ最高!NISA内での儲けは、100万だろうが1,000万だろうが一切税金をとられません。日本政府が「将来は年金とか下がるかもしれないから自分で資産運用して勝手に頑張れよ!」と餞別でくれる特別アイテムです。ただし、当然無制限だと税金を取りっぱぐれてしまうので、年間投資金額の上限と期限が設けられています。2016年現在のNISA制度では投資枠は年間120万円までで、期間は投資した年から5年間だけです。また、一人一つしか作れないNISA口座を囲い込むため、各証券会社はシノギを削って勧誘活動を行っています(笑)。特にネット証券のほとんどは「NISA口座での売買は手数料無料!」というキャンペーンを行っていますから、実質的に税金も手数料もかからない超お得な丸儲け投資口座となっています。
こんなメリットだらけのNISAですが、実は落とし穴が3個だけあります。意外と多い(笑)。
落とし穴1: 損益通算が出来ない
NISA口座は「税金がかからない証券口座」ではなく、厳密には「国が見て見ぬふりをする証券口座」です。国民がNISA口座でいくら得しても見て見ぬふりをしてくれますが、その逆で損した時にも振り向いてくれません(笑)。つまり他の証券口座と損益通算ができないんです。例えばあなたがA証券の口座で10万円儲かってB証券の口座で10万円損した場合、あなた個人としては差し引きイーブンです。儲かっていないので当然税金もへったくれもありません。しかし、あなたがA証券の口座で10万円儲かってB証券のNISA口座で10万円損した場合、あなた個人としては差し引きイーブンですが、国としてはあなたは10万円儲かったと判断します。NISA口座は見てくれません(笑)。
こんなケースもあります。NISA口座で買った株は5年経つと自動的に特定口座ないしは一般口座へ強制引っ越しとなります。この「引っ越し」は編入というよりは事実上の「つなぎ売買」です。NISA口座の5年タイムリミット時点で株は時価で強制的に売却され、同じ値段で普通の口座で買い戻されます。ですからタイムリミットで強制引っ越しとなった株の「取得金額」はタイムリミット時の終値に更新されます。含み益がでていれば良いですが、もし含み損状態の場合、あなたが本当は10万円で買った株でも2万円で買った扱いをされることがあります。取得価額が下がるということは、損失を損失扱いしてくれないということです。これも上記のケースと同様に「NISA口座を見てくれない」ことが裏目にでるケースです。
落とし穴2: 日本が許しても、アメリカは許さない(笑)
もう一つの落とし穴にいきましょう。実はこのNISA口座は、あくまでも日本政府が税金を取らないだけなので、外国政府はきっちり税金を取ってきます^^;。例えばNISA口座でアメリカ株を買った場合、配当金にはアメリカで10%の税金が課せられます。普通の特定口座を使った場合、租税条約によりアメリカでかかる税金10%は外国税額控除によりほぼ返してもらえますので、日本株と同じように20.315%を日本政府に納めます。租税条約というのはあくまでも税金の二重取りを防ぐための二国間条約であり、「日本が取るからその分アメリカでは取らないでね」というだけなので、日本で税金をとらないものについては容赦なくフルでアメリカが取っていきます(笑)。つまり、NISA口座だと10%がアメリカ政府へ。特定口座だと10%がアメリカ政府へ、10.315%が日本政府へ。要は減税効果が薄い^^;。一部の証券口座ではNISA口座で海外ETF手数料無料キャンペーンをやっていますので、もし海外株にNISA枠を使う場合はそういったキャンペーンを使いましょう。普通に海外株を買うなら、日本株でフルに枠を埋めたほうが効率はいいです。
落とし穴3: JDRの分配金は税金をしっかり取られる
最後の落とし穴はJDRです。NISA口座で配当・分配金の免税を受けるには「比例配分方式」を使わないといけません。しかし、JDRの分配金は、JDRを受託している「取次業者」である各会社から分配金が銀行口座に支払われます。つまり、比例配分方式が使えないんですね。必然的にNISAでJDRを買うと、配当金や分配金に普通に税金がかかってしまいます。
これは意外と大きな落とし穴です。例えば、インデックス分散投資のメインツールであるS&P500対象のインデックスETFの場合、最も有名な「SPDR S&P 500(1557)」はJDRなのでNISAでも税金が取られます。一方、「上場インデックスファンド米国株式(S&P500)(1547)」は国内の日興アセットの商品なのでNISAでキッチリ免税されます。信託手数料は「SPDR S&P 500(1557)」の方が安いですが、NISAで買う場合には「上場インデックスファンド米国株式(S&P500)(1547)」を選んだほうがリターンは大きくなります。ややこしい、、、、。
※どのETFがJDRなのかはこちらのエントリー「株式投資の基本(6) JDRとは? & JDR一覧」を御覧ください。
NISA口座の活用パターン
さて、ここまで11,000文字を掛けて証券口座について見てきました。相変わらず文章量が多くてすみません^^;いよいよお待ちかねのNISA口座活用術に行きましょう。NISA口座の特徴をフルに活かして、どうやってより儲けるのか、実践編です。NISA口座で損をするパターンは、「タイムリミット時に含み損状態」のときです。つまり、「いかに損失をおさえてリターンをとるか」という投資戦略の根幹が試されるわけです。
活用例1: 東証ETF/投信の分散投資
投資方法の中でもっともリスクが低いのが「株式投資の基本(2) インデックス投資とETF編」でも取り上げたETFによる全世界分散投資です。大儲けすることがない代わりに大損するリスクも少ないので、堅実派にはぴったりです。いまはまだNISA口座は5年しか使えませんが、2018年に開始予定の「積立NISA」が始まると、年間40万円を20年間非課税にすることができるようになります。5年だけだと本当に下がらないかは若干怪しいですが、20年あればほぼほぼ順調に推移するでしょう。もちろんタイムリミット直前に大恐慌が起きたらダメですけど^^;
幸いNISAでは手数料無料キャンペーンが多いですから、いつも以上にタイミングを変えて細かく投資することができます。手数料を気にすることなくドルコスト平均法をフルに使えば、かなり手堅い投資が可能です。
また、インデックス投信の場合は信託手数料がETFより高い代わりに分配金が出ないものを選べるという特徴があります。分配金がでなければNISAの枠内で複利効果が期待できます。さすがに5年やそこらだと信託手数料のほうが効いてきそうですが、将来積立NISAが出来たら一考の余地はあります。
活用例2: 海外ETFを使った分散投資
SBI証券のように海外ETFの手数料無料キャンペーンを使えば、普段なかなかできない「海外ETFの細かい配当再投資」ができます。普段であれば海外ETFを配当再投資しようとすると手数料負けしてしまいますが、NISAでキャンペーンを使えば手数料を気にせず細々と追加購入できます。ETFについては日本よりも遥かにアメリカの方が発達しており、商品ラインナップも充実しています。いわゆる「スマートベータETF」と呼ばれるような「配当が高い株だけ集めた米国株インデックス」や「増配銘柄だけ集めたETF」などリターンを高める面白いETFがあります。これらをフル活用出来るのが海外ETFの強みです。ただし、くれぐれも為替レートにだけは気をつけないといけません、、、。
活用例3: 大型株で配当狙いパターン
NTTやJT、ゆうちょ銀行や五大商社(三菱、伊藤忠、三井、住友、丸紅)などのいわゆる「大型株」を使って配当を狙うパターンです。よく雑誌等で紹介されるやり方ですが、個人的にはちょっと中途半端かなと思います。大型株は確かにある程度堅調ですが、20年前のように「絶対安全!」みたいな信頼感はもうありません。配当率にしても良くて3%程度なので、それならETFのほうが良いんじゃないかと思います。ただ、もしこれらの株が割安状態になったら積極的に買いにいって良いと思います。
活用例4: 小型株/成長株狙いでビッグチャンスパターン
私が一番大好きなジャンルです(笑)。せっかくの非課税ですから、がっつり値上がりする株をしこんだほうが当然恩恵にあずかれます。問題はどうしたら値上がりする株が見つかるんだという話ですが、それは努力と勉強と運です(笑)。ちなみに大真面目な話、私がいつも目をつけるのは「PBRが0.8程度で業績が順調な銘柄のうち、あきらかに業種が”衰退産業”ではない会社」です。まずはこの条件で絞込(スクリーニング)をして、その後で公式HP上の決算短信を読めばなんとなく上がりそうかどうかが見えてきます。
現実解: 成長株とETFのハイブリッド
実際にNISA口座の枠を使い切る時に、一番現実的なのは個別の成長株とETFのハイブリッドです。まずは個別株を60万円ぐらい購入し、残りを総額100万円ぐらいまでETFで埋めます。基本は海外株インデックスとTOPIXインデックスのETFです。残りの予備20万円分を年内に値下がりしたときに使うナンピン買い枠としてとっておきます。iシェアーズのTOPIX ETFなら1500円程度で1口から買えますから、最終的には枠ギリギリいっぱいまでフルでNISAを活用することができます。
まとめ
ということでいろいろなパターンを見てきました。もしお悩みの場合は、
- 安定のETF/インデックスファンド埋め
- 自信があるなら小型成長株
- その両方をいい感じのバランスで
という3択が無難かなと思います!
あんまりNISAの利用率が高くないみたいですが、これは本当にもったいないです。みなさんも国がくれたこのボーナス口座を是非上手く活用してみてください。