さてさて「株式投資の基本」シリーズ第3弾は基本でもなんでもないREIT(リート)です(笑)
何を隠そう、私はこのREITという仕組みが大好きでして、実に投資資金の2割がREITで占められています。そのため、今回はちょっと細かいところまできっちり書いていきたいと思います。
REITとはなんぞや
まずはREITの仕組みについて見ていきましょう。REITとはReal Estate Investment Trustの略で、直訳すると「不動産投資信託」となります。その名のとおり不動産に特化した出資組合のことです。「投資の基本(1)株とはなんぞや編」で株券は会社の「一口所有権」だと説明しました。株が会社の所有権を細切れにしたものだとするならば、REITは不動産の所有権を細切れにしたものです。
例えばREIT銘柄で「森ヒルズリート投資法人」というのがあります。この銘柄はその名のとおり、森ビルの「ヒルズ・シリーズ」に出資しています。六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズです。この「森ヒルズリート投資法人」を一口買うと、あなたは六本木ヒルズの「一口大家さん」になれます。儲かるかどうかは置いといて、ちょっと夢があると思いませんか(笑)?
REITの仕組み(1)不動産取得と借り入れ
さて、ではそんな「一口大家さん」であるREITはどんな仕組みで動いているでしょうか?
まず、REITにはスポンサー企業が存在します。たいていの場合は不動産企業です。「森ヒルズリート投資法人」であれば森ビルですし、「東急リアル・エステート投資法人」であれば東急電鉄。「大和ハウスリート投資法人」であれば大和ハウス工業です。こういったスポンサー企業がまず100%出資して、REITを作ります。スポンサー企業はREITが不動産を取得したタイミングで上場し、その権利を細切れにして市場で個人に売却します。
では不動産取得を見ていきましょう。
誕生したREITは、出資されたお金を、元手にして不動産を買うために、銀行からお金を借ります。これは、個人でも家を買う時に似たようなことをやってるはずです。住宅ローンですね。実際にはこれは事業用の借り入れですから、個人の住宅ローンよりも高い金利を銀行から課せられます。
こうやって出資金を頭金にしてローンを組んで、REITは複数の不動産を取得します。この時、取得した住宅の価値に対してローンがどれくらいあるかのパーセンテージをLTVといいます。Loan to Value(資産に対する借り入れ)の略です。一般的にREITでは40%〜50%ぐらいになります。30%を切っているところはかなり優秀で、60%を超えてたらヤバいと思ってください。この数値はとても重要です。ぜひ覚えてください。
皆さんリーマンショックを覚えていますか?あれはアメリカで貧民向け住宅ローンを束ねたCDOという特殊な債券の仕組みが発端となって起きました。例えば個人で住宅を買う時でも頭金は2-3割は入れますよね?4,000万円の一戸建てを買うなら、頭金で800万円ぐらいは欲しいところです。もちろん頭金1割やフルローンという人もいるでしょうが、そんな方は勤め先が倒産でもしようものなら財政破綻してしまいます。
住宅ローンを借りる時には必ずその建物を抵当に入れます。住宅ローンが払えなくなった場合、銀行はその家を差し押さえて、中古で売却し、ローン返済の足しにします。ですが、特に新築の場合、一回でも入居してしまうと中古物件になってしまい、売値が1割〜2割ぐらい下がってしまいます。先ほどの例で言えば、新築4,000万円の一戸建てでも、一回でも入居してしまえば価値は3,400万円ぐらいになるってことです。そうすると、銀行としてはフルローンで貸してしまうと担保が足りません。この差額を埋めるために、頭金が必要なんです。頭金で800万円を払って貰えば、銀行としては最悪ローンを返してもらえなくても、家を差し押さえて売っぱらえばお金は回収できます。ですから、頭金はこの「購入代金」と「中古としての売却価格」の差額だけ必要なんです。
リーマンショックの引き金となったCDOは、まさにこの「回収できないかもしれない住宅ローン」を束ねて証券化したものです。つまり、踏み倒し直前の借金を一旦肩代わりし、そのかわりにローンを自分で回収するという「高利貸し借金取り代行ファンド」です(笑)。そりゃあハイリスクハイリターンですよね。聞くだに危ないです。
リーマンショクの際はアメリカの不動産バブルがはじけて「不動産の中古としての売却価格」が銀行の予想より遥かに下がってしまいました。そのため返せなくなった個人からの差し押さえ財産ではローン回収に足りず、結果的に借金取り代行サービスが破綻して、モーゲージ債が紙切れになったんです。CDOは通称ジャンク債と呼ばれてリターンが10%を超える博打みたいな債券だったにも関わらず、「多くのモーゲージ債に分散投資されているから安全」という謎理論により多くの銀行や証券会社がこれを持ってたんですね。結果として金融業界全体が総崩れになりました。この辺の詳しい話はマイケル・ルイスの「世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)」に詳しく書いてあります。同作は「マネー・ショート 華麗なる大逆転(2015)」というタイトルで映画にもなっています。
さて、このリーマンショック時に起きた住宅破綻ですが、REITもこの現象と無縁ではありません。もし万が一何かの要因で不動産価格の下落が起きた場合、LTV比率の高いREITは破綻する可能性があります。銀行はローンにはシビアですから(笑)、担保の不動産価格が下がった場合、その担保に見合った金額まで強制的に貸付金の返済を要求してきます。いわゆる貸しはがしです。こうなるとREITは破綻=倒産してしまい、当然そこに出資したお金も返ってきません。
そんな急に不動産価値が下落するわけが無いと思ったあなた!その認識は甘いです。例えば、地震が来てビルがダメになってしまったらどうでしょうか?例えば9.11のようにビルがテロで壊されたら?例えばテナントの飲食店が火事を起こしてビルが燃えてしまったら?不動産は現物資産ですから、何があっても不思議ではありません。不吉なようですが、例えばマンションの場合、とある部屋で住人が自殺でもしようものなら不動産価値は極端に下がってしまいます。
また、政策金利の利上げがあった場合、当然ローン金利も上昇します。借り入れ期間が短いREITは、借り換えのタイミングで繋ぎに失敗して高い金利のローンをつかまされる可能性もあります。LTVの面倒なところは、借り入れが多ければ多いほど、頭金に対する儲けも大きくなることです。これをレバレッジ(=テコ)と言います。自分が買うREITを選ぶ際は、分配率が高くてもLTVが高い銘柄はリスクがあると考えましょう。「分配金が高い=儲かってる」では無いのが、REITの面白いところです。
REITの仕組み(2)賃料と分配金
不動産を取得したら、次はいよいよ大家さん稼業です。買った不動産に入居者を募って、賃料をもらいます。さて、ここでREITの種類についてです。一口に「不動産事業」と言っても、不動産にもいろんなジャンルがあります。日本のREITはざっくり分けると以下の種類になります。
住宅系 | マンションや分譲住宅 |
オフィス系 | 企業向けのオフィスビル |
商業系 | ショッピングモールやデパート |
ロジスティック系 | 物流倉庫 |
ホテル系 | ビジネスホテルやリゾートホテル |
メディケア系 | 老人ホームや病院 |
これら一つ一つに特徴がありますので、自分の読みにあったものを購入すると良いと思います。2020年のオリンピックまでは結構ホテルが需要あるのかなと思いますし、ロジスティクスも通販ビジネスの活況でかなり需要があります。一方、住宅はいまバブル真っ最中でありちょっと目先が怖いかもしれません。メディケアは間違いなく高齢化社会でこれから需要が増加します。商業やオフィスは景気次第ですね。そんな感じで、自分が好きなジャンルを掘り下げてみると面白いです。
こういった各ジャンルでテナント料をとりましたら、それを実際に投資家へ還元することになります。ここでREITの一番の特徴が出てきます。日本ではREITに税制優遇があり、収益の90%以上を分配すると法人税がかかりません。このため、儲けをほぼそのまま分配することになります。そうすると、一般的な株式よりも多く分配金がだせるんです。REITのリターンは株式よりも多く、概ね3%~5%ぐらいを貰うことが出来ます。一方でこの仕組み上、利益を毎回分配してしまいますので内部留保がほとんどありません。ですからもしテナント撤退などで利益が落ち込んだ場合、それがダイレクトに減配につながります。そうすると、REITの基準価格はその分配金に見合った水準まで落ち込み極端に下落します。しかしさらに翌年利益が元の水準に戻ると基準価格も急上昇してもとに戻ります。そんなこんなで、一部のREITは非常に値動きが荒い傾向があります。
直接行う不動産投資とREITの違い
皆さん「金持ち父さん 貧乏父さん」という本をご存知でしょうか? ロバート・キヨサキというハワイの不動産成金の人が書いたベストセラー本で、「とにかく不労所得=不動産を買え!」という豪快な内容です(笑)。実際いま本屋さんに行くと「区分マンション」とか「駐車場経営」といった不動産投資の本が山ほど並んでいます。では実際に自分で現物の不動産を買うのとREITに投資をするの、どちらが良いのでしょうか?
現物不動産 | REIT | |
---|---|---|
最低投資額 | 数百万~数千万 | 数万 |
表面利回り | 6%~20% | 3%~5% |
維持費 | 固定資産税 修繕費 管理料 |
なし |
実リターン | 3%~10% | 3%~5% |
流動性 | 低い 売買に手間がかかる |
高い 市場ですぐに売買できる |
その他 | 不動産の目利き力や経営ノウハウが必要 銀行ローンを活用することで手持ち以上のお金を投資できる |
REITの事業性・健全性の判断が必要 |
現物不動産投資の一番の特徴は、借金して投資ができることです。例えば手元に1,000万円しか無くても、銀行から融資をうけて5,000万円のアパートを買って経営することもできます。もちろん借金の分だけリスクは跳ね上がります。そう、現物不動産への投資はもはや単純な「投資」ではなく「事業経営」です。立派な仕事です。片手間にできることではありません。しかしその分、事業経営のノウハウや能力で利益率を上げることができます。もしあなたに能力や才能があれば、一攫千金のチャンスがあります。
一方、手軽さという意味ではREITの方にメリットがあります。REITは好きな時に買って始めて、好きな時に売って辞めることができます。しかも維持するのに手間もコストもかかりません。とても気軽に投資できます。しかしその分、リターンが10%を超えるような大儲けは難しいです。
本腰を入れて大家さん事業をするのか、あくまでも投資家としてリターンを目指すのか。現物不動産投資とREIT投資は似ているようで全然違うジャンルです。
もし「金持ち父さん 貧乏父さん」のような自己啓発本を読んで現物不動産投資に興味が出てきた人は、悪いことは言いませんから一回冷静になって1年ぐらい真面目に勉強してみると良いと思います。現物不動産投資はそんな生易しいものではありません。もし遺産やなにかで余っている土地があるならば駐車場経営はそこまで難しくありません。しかしいまから新規で土地を買うとなると駐車場経営ぐらいでは割にありません。かと言っていきなりマンションやアパートを買ってはいけません。ネット上にある投資用不動産の情報は表面利回りしか書いていません。特にオーナーチェンジ物件では顕著です。こういったものは、まず全室が空き室になった場合ひと月にどのくらいの経費が流れていくのかを計算し、それに耐えられるだけの元手があるかどうかを冷静に計算してみましょう。そうすると、実は表面利回りが20%近くないと現実的に厳しいというのがわかると思います。そして、そういう儲かる物件はネット上にはほぼありません。ちゃんと自分の足を使って地方の不動産屋を周らないといけないことに気付くでしょう。楽して儲かる方法なんて無いんです。
REIT銘柄の選び方
軽くおさらいしておきましょう。
- REITは不動産の「一口オーナー」
- システムは株式とよく似ている
- 金利の影響をもろに受ける
- 配当/分配金は株式よりも多い
- 値動きが荒い傾向がある
そんなこんなで、REITは株式よりもリスクが高く、その分リターンも高いと言えます。よく「不動産だから株より安定してる」と言う人がいますが、それは嘘です(笑)。実際にREITを買ってみるとびっくりするくらい価格が乱高下するのがわかると思います。冗談抜きで毎日2%ぐらい上げ下げしますから^^;
ではREITの銘柄をどうやって選ぶのかというと、まずは先程出てきたLTV(借り入れ比率)とNAV倍率をみることになります。NAV倍率というのは、「株式投資の基本(1)株とはなんぞや編」にでてきたPBRのREIT版です。現在価格を純資産で割った倍率で、これが1より大きいと気持ち割高、1より低いと割安となります。1より少ない場合、いまこの瞬間にREITが解散すると価格以上のお金が戻ってきます(笑)。
LTVが40%ぐらいで、NAV倍率が1.2倍以下ぐらいであれば、その銘柄はまずは第一関門クリアです。
そうしたら次に、そのREITが実際に持っている不動産を見てみましょう。これはREITのホームページを見ると「所有物件」として必ず載っています。REITの一番のリスクは「空き室」です。ビルの立地や、いま借りてくれているテナントをチェックしましょう。オフィス系でよくあるのですが、ビルをまるまる一つの会社に貸している場合、もし万が一その会社が引っ越しすると何にも残りません。ビル一棟全体が空き室になります。こういったケースはかなりリスクがあります。とはいえ、立地がよければ次の借りてがすぐに見つかるかもしれませんから、必ずチェックするべきです。
こうやっていい感じの銘柄が見つかったら、最後に値動きと分配履歴のチェックです。特に過去の分配金が安定しているかどうかは必ず確認します。分配金が乱高下している場合、その銘柄はかなり怪しいです(笑)。数年に一回ぐらい下がっているだけなら「たまたま空き室だったのかな?」で済みますが、毎年のように乱高下している場合、財務が極端に不安定で銀行からお金を上手く借りられていない(=借り入れの期間が短くてしょっちゅう借り換えをしている)可能性があります。そういった銘柄には近づかないほうが良いです。貸し剥がしで一発レッドになるリスクがあります。
2016年末時点で、アメリカは利上げを控えています。アメリカが利上げをするとイールドスプレッド(金利差)によって円安ドル高になりますから、ある程度のところで円安ドル高の動きを止めるために日本も同じだけ利上げをする必要があります。そうすると借り入れローンの金利も上がり、REITには逆風が吹き荒れます。いまからREITに投資するのであれば、特にLTVには十分に気をつけましょう。