インデックス投資の罠~株式投資の基本(8)

おはこんばんにちは。きゅうべいです。
さて、8回目を迎えそろそろ本当に基本なんだかよくわからなくなってきているこのシリーズ(笑)。今回は「インデックス投資の罠」と題してお届けします。

インデックス投資の復習:アルファとベータ

まずはインデックス投資のおさらいから始めましょう。

インデックス投資とは、特定の国やマーケット・業種などに連動する「インデックス」に連動するように作られたETFやパッシブファンドを組み合わせてポートフォリオを構築する手法です。

この「インデックス投資」の特徴を知るには、「アルファ」と「ベータ」という概念が欠かせません。

実はこの概念をちゃんと説明しようとすると、分厚いハードカバーの学術書が3つくらい必要です(笑)。それを猛烈に端折って超簡単に説明します^^;。

アルファとベータは、「シャープ・レシオ」で有名なウィリアム・シャープというノーベル経済学賞を獲った先生が考えた用語です。このシャープ先生はCAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)の第一人者で、株価や経済動向の波を2つに分解することにしました。それがアルファとベータです。

「ベータ」というのはある特定の市場全体を包み込む大きな波のようなものです。例えば「リーマン・ショック」とか最近の「トランプ相場」とか、どの銘柄がどうということではなくて市場全体がガーーーッっと上がったり下がったりする全体的なトレンドのことです。もちろんこういう特殊な状況以外でも、ベータは常に存在しています。

一方の「アルファ」というのは、特定の銘柄固有の動きです。直近では東芝がいい例です。東芝は粉飾決算だののれん負債だのとやりたい放題会計をいじりまくった挙句、ストップ安になりました(笑)。このストップ安は別に日本経済全体の問題じゃないですよね? 完全に東芝固有の問題です。みんながトランプ相場でガーーーッと上がっているのに、東芝だけポツンとストップ安になったわけですから。このような固有の事情により全体から乖離する波が「アルファ」です。

株価や経済動向などの変動波は、このアルファとベータの合成波として表すことが出来ます。

インデックス投資を行うと、この「アルファ」を極限まで排除することが出来ます。なにせ何百という銘柄をバスケットに全部突っ込んで指標化するわけですから、その中の数個の銘柄が変な動きをしようがその影響は薄いわけです。

こうして、市場の波から極限まで「アルファ」を排除してほぼ「ベータ」だけにしたのがインデックスファンドでありETFです。ですから、このツールを使えば、確実にベータ=市場の平均点が狙えます。

余談ですが、この抜き出したベータのことを「エクスポージャー」といったりします。例えばETFの解説で「TOPIX ETFと日経225ETFの違いは、エクスポージャーの大型株への偏り方である」みたいな使い方をします。「金ETFと現物の金地金のエクスポージャーは微妙に違う。それは金ETFが先物価格を利用しているからである」みたいな感じです。相手がインデックス投資オタクがどうかを見分けるのに、サラっと会話で使うといいでしょう(笑)。

さらに、ベータを抜き出すことで色々な市場/商品/条件の相関関係を簡単に数値化することができるようになります。株と債券は反対の動きをすることが多いとか、株と不動産は微妙にずれるけど概ね同じように動くとか、ですね。

そうすると、今度はこのベータ同士を組み合わせて波の高さをいい感じに抑えることができるようになります。これが超古典ハリー・マーコヴィッツ「現代ポートフォリオ論(1952年)」につながります。

「アルファ」を個人投資家が追い求めるのはかなり大変です。なにせ、アルファを追い求めているプロのファンドマネージャー達はその業界やその銘柄の専門家・インサイダーを多数抱えていますから。もしかしたら自分の就職先の業界のことならプロのファンドマネージャーよりも詳しいかもしれませんが、それ以外の広範囲で戦うのは無謀です。

個人投資家としては、無難にベータを甘受するのがコストパフォーマンスに優れたやり方であり、だからこそ世界中で「インデックス投資」が「ベストではないがベター」と言われ定番化しているわけです。

また、このアルファとベータの概念を理解すると「実はETFというのはある1つのベータを表しているのだ」というのがわかります。すると今度は「特定業種のETF空売りと個別銘柄買いを両持ちすることでアルファだけを抽出できる」というような応用が可能になります。個人でやるにはしんどいですが、ヘッジファンドは日常的にやっています。

加重平均指数の弱点

インデックス投資においては、一般的にアメリカの「S&P500」や日本の「TOPIX」、国際投資の「MSCIコクサイ」などの指数が利用されます。こういった指数は国家のGDPや個別会社の時価総額を「重み」として利用し、その割合で組入比率を決めています。こういうのを「加重平均指数」といいます。

ほぼインデックスといえば「加重平均指数」というくらいに普及しまくっているのですが、実はこれを用いた投資には大きな弱点があります。それは「時価総額が大きいほど組入比率が大きくなり、時価総額が小さくなるほど組入比率が小さくなる」という構造そのものです。

つまり、「過大評価されている=バブル状態にある株ほど多く買い、過小評価されている=リターンが高い株ほど少なく買われる」ということです。

時価総額はあくまでもその瞬間の市場からの評価であり、将来性や有望性とイコールではありません。ホリエモンを有名にしたライブドアや、アメリカITバブルの寵児シスコはその典型です。これらの企業は期待値だけで膨れ上がった株価に後押しされ、実態はロクな利益が無いのに時価総額だけが跳ね上がりました。加重平均指数を使ったインデックス投資を行うと、こういった過大評価の会社をしこたま買い込むことになり、本当は有望なのに過小評価されている株は少ししか買われません。結果として、明らかな過大評価株を避けた個別株の分散投資に負けてしまいます。

ファンダメンタル・インデックスという考え方

この弱点を克服しようとしたのが「ファンダメンタル・インデックス」です。これは、銘柄組み入れの重み付けを時価総額以外で行おうとする試みです。考案したロバート・アーノットは、売上高/キャッシュフロー/株主資本/配当/従業員数/平均給与など、複数の会社情報を組み合わせて重み付けを行う「RAF(リサーチ・アフィリエイツ・ファンダメンタル)」という指数を作りました。日本ではまだまだドマイナーですが、アメリカでは「RAF ETF」として既に上場されており、過去の成績は通常のS&P500をサクっと上回っています。

このRAF指数は、要素の組み合わせ方の妙というよりも「明らかな過大評価を避けるにはどうするべきか」というロジックに基づいており、そして実際に実績を残しています。

ファンダメンタル・インデックスを個人で応用する

このファンダメンタル・インデックスに類似した手法を日本で個人が使おうとした場合、とても役に立つのは「スマートベータ ETF」です。スマートベータETFは、「高配当」だったり「バリュー株(低PBR)」「グロース株(高ROE)」などといった時価総額以外の数値を重み付けに利用したインデックス指数のETFです。

スマートベータETFは指数には連動しているのでインデックス投資といえますが、肝心の指数の構成銘柄がアクティブ(=恣意的)に動いていくため厳密にはパッシブ・インデックスと呼べるかはかなりグレーです。インデックス投資とパッシブ投資はよく混同されますが、こういうところで微妙に違いが出てきます^^;

日本では高ROEをかき集めた「JPX日経インデックス400」や配当利回りと時価総額の合成指数である「東証配当フォーカス100指数」などがETFとして商品化されています。ファンダメンタル・インデックス的な考え方で言うと、単純な時価総額の加重平均であるTOPIXではないこれらを使うことで、「過大評価」「過小評価」の基準を変えることができます。絶対に良いとは言えませんが、単純なTOPIXインデックスETFを単独で買うよりも、こういったスマートベータETFを適度に混ぜて保持することでリターンがよくなる公算があります。評価軸自体までも分散するわけです。ここまでいくと軽く「分散中毒」状態で、本当に何がいいのかよくわからなくなってきます(笑)。

まとめ

私個人的には、国内株インデックスは「iShares TOPIX(1475)」と「東証配当フォーカス100(1698)」と「日経225連動型上場投資信託(1321)」の3種類を「5:2:1」で購入・保持しています。完全に気休めかもしれませんが、なんとなくです^^; また、外国株では「iシェアーズ・コア 米国高配当株(HDV)」を定期的に購入しており、「バンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI)」と混ぜてとても良いリターンを受けられています。こういったスマートベータ商品は結果論でしかパッシブインデックス商品と比べられません。しかし一方で「ダウの犬戦略」のように手動では古くから存在している古典中の古典だったりします。

黙々と積み立てるだけの退屈なインデックス投資の合間の息抜きとして、スマートベータETFに手を出してみるのも面白いですよ^^;

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